【設計】 本館:宮内省匠寮、内装:アンリ・ラパン / 新館:東京都財務局、久米設計
【所在地】東京都港区白金台5-21-9[地図]
【用途】 旧用途:住宅 / 現在:美術館
【構造】 本館:RC造 / 新館:S造一部SRC造
【竣工】 本館:1933年 / 新館:2013年
東京都庭園美術館について
目黒駅近く、武蔵野の森がまだ残る国立科学博物館付属自然教育園の隣、広大で緑豊かな敷地の中に庭園美術館はあります。アール・デコ様式でまとめられた旧朝香宮邸を美術館に転用した本館と、芝庭に対して開いたガラスとタイルで構成された新館から成っています。近代建築を美術館に用途変更する際、大方は白い箱となるよう手を加えるものですが、ここでは元々の意匠をそのまま残し展示空間としています。内装の意匠自体がいわば常設展の展示で、企画展については意匠となんらかの関係性を持ったテーマで開催するという絶妙な運営がなされています。

敷地の門を超えてすぐのところにあるチケットセンター。ここでチケットを買って緩やかなカーブを描く道沿いに森の中を進むと本館にたどり着きます。ミュージアムショップが併設されていて、レストランも近くにあります。


森を抜けひらけた場所に出ると、庭園美術館の本館である近代的な建物が姿を現します。鉄筋コンクリートのフラットルーフによる外観はとてもシンプルで、どちらかというとインターナショナルスタイルに近いものになっています。


シンプルな外観から内部に一歩入ると、ルネ・ラリックのガラスレリーフに迎えられます。
館内はアール・デコ様式でまとめられています。アール・デコとはアール・ヌーヴォーの後、1910年代半ばから1930年代にかけて流行した装飾様式で、幾何学図形をモチーフにした表現や原色による対比表現が多く見られるのが特徴です。モダニズムと同じく機械を思わせるような機能的・実用的なフォルムを意識されていましたが、あくまで装飾であったため、装飾を排除し合理性を重視したモダニズムとは相容れないものでした。規格製品が溢れる現代においては、手間暇をかけた工芸的デザインが組み込まれた空間がとても魅力的です。



2013年に竣工した新館。シンプルなヴォリュームに芝庭と本館を借景にする全面ガラス、かまぼこ型のヴォールト天井が特徴です。新館の展示室はホワイト・キューブになっていて、アール・デコの内装をそのままに展示空間として使用している本館では展示できないようなものでも展示できるよう、美術館としての幅を広げるような設えになっています。

本館からの自然な接続を意識して装飾的な美しいガラス壁を通り抜けて新館に入っていきます。本館のエントランスで迎えてくれたラリックのガラスレリーフに呼応しているとのこと。

装飾ガラスを抜けた先のロビーは、全面ガラスによる庭の取り込みとヴォールト天井からの柔らかい光によって演出された開放的な空間になっています。ヴォールト天井といえばルイス・カーンのキンベル美術館がまず思い浮かんでしまうのですが、ともかく半円の頂部にある反射板ないし上向きの照明によって作り出される光が、滑らかな曲面を伝って柔らかい光となって館内を均質に明るく包み込む居心地のいい空間をつくりだしています。

端部に行くと、ヴォールト天井の部材がT字でつくられ、反復されていることが見て取れます。

