田根剛「未来の記憶」展レビュー

このイベントは終了しました。

【開催期間】2018年10月19日(金)~2018年12月24日(月)

【開催場所】東京オペラシティ アートギャラリー [地図]

【アクセス】京王新線 初台駅 徒歩4分

【 詳細 】 東京オペラシティ アートギャラリー HP

「 田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future-Digging&Building 」

建築家・田根剛氏の「田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future – Digging & Building」に行ってきました。

ところで皆さんは田根剛さんをご存知でしょうか。

私は東京オリンピックの新国立競技場コンペで異彩を放っていた「古墳スタジアム」を見て初めてその存在を知りました。

https://www.jpnsport.go.jp/newstadium/Portals/0/NNSJ/26.html

画像:Atelier Tsuyoshi Tane Architectsより

田根剛さんは2006年に若干26歳でエストニアの国立博物館のコンペに勝利し、現在では舞台装置から住宅から文化複合施設まで幅広く活躍されている新進気鋭の建築家です。その土地に埋もれた記憶を膨大なリサーチの上に徹底的に解読し、作品へと昇華させることが特徴的です。

展覧会では天井高さ6mの会場をフルに使ってのリサーチの手法の展示から始まり、建築の映像表現。進行中のプロジェクトも含めた代表的な7作品の展示、そして落選したものも含めたすべてのプロジェクトのダイジェストが展示されており、非常に刺激を受ける見ごたえのある内容となっていました。

場所の記憶を発掘する

床・壁、空間すべてを使って記憶の考古学的リサーチについての展示がされています。

“古代から未来へ向かう記憶を12のテーマで掘り下げ、建築の思想と思考を支えるアイデアは記憶の連鎖によって呼び起こされる”

建築の構築 – 代表作7作品の展示空間

建築の構築 会場

ここは建築の発掘現場である。場所の記憶を掘り起こし、建築を未来の記憶へと繋ごうとしているその思考の痕跡を現在進行中のものも含めた7つのプロジェクト別に紹介します。

■エストニア国立博物館

エストニア タルトウ
2006-2016
国際設計競技/最優秀案/竣工
34,581㎡
博物館

エストニアの古都タルトウの東北部。森を切り裂くように横たわっていたソビエト連邦の軍用施設として占拠された滑走路 。負の遺産である旧ソ連の軍用滑走路を抹消するでもなく、忘却するでもなく、エストニアの民族の記憶を継承するように博物館を滑走路の延長線として接続した。

■新国立競技場案 古墳スタジアム

日本 東京
2012
国際設計競技/最終選考案
290,000㎡
スタジアム

競技場の起源は大地を削り人びとが集まる場所をつくった古代ギリシアまで遡る。明治神宮外苑は文化とスポーツ振興の場として東京の未来へと開かれていた。世界最大の祭典となるオリンピックと古代最大の日本のピラミッドである古墳が一体となる建築。その建築は明治神宮の森のつくり方に倣い、日本の各地から木々を集め民衆の手によって100年の森をつくるナショナル・プロジェクトとすることで場所の記憶を未来へと向ける夢の構想だった。

■Todoroki House in Valley

日本 東京
2017-2018
竣工
188㎡
住宅

敷地である等々力は住宅が過密に建てられ区画整備された都会の分譲地である。しかし、本来この場所は渓谷の深い森で覆われていた。大きな森に覆われながら、地面の中に埋もれる原始的な居心地、空間が立体化され積み重なっていく都市的な複雑さとそれらすべてが混然一体となった未来の家。

■A House for Oiso

東京 神奈川
2014-2015
竣工
122㎡
住宅

昨今の分譲開発によって風光明媚な大磯の暮らしと古代から受け継がれてきた場所の尊厳が失われつつあるなか、縄文=竪穴、弥生=高床、中世=掘立柱、江戸=町家、昭和=邸宅を統合したひとつの家、日本が忘れた日本の家をつくるプロジェクト。

■弘前市文化施設

日本 弘前
2017-
設計競技/最優秀案/進行中
3,537㎡
美術館

弘前のレンガ倉庫を美術館にするプロジェクト。レンガ壁を無傷な状態で残すためにレンガ壁の高さ9mの上部からPC鋼線を差し込み、下部で緊結する技術を採用している。

■ブータン五つ星の村

ブータン
2017-
進行中
2,800㎡

日本とブータンの共同プロジェクトで、もともとはブータンにおける5つ星ホテル開発の計画だった。来訪者が森と谷間で暮らすブータンの村での体験といった、村人と共に暮らすすべての体験が5つ星となるアイデアとして、新たな5つ星のホテル開発ではなく、村の暮らしの仕組みと伝統的な民家を用いて5つ星の村をつくってはどうか。というプロジェクト。

■10 Kyoto

日本 京都
2017-
進行中
12,500㎡
複合施設

京都の十条に計画中の十字のピラミッド型の建築。京都で解体された建物の大量の古材を集め集成材とした「古材集成材」によって全体を覆っている。

京都の古いものを集め未来へとつなげていくプロジェクトです。

建築の映像表現

エストニア国立博物館の映像展示

アーティストの藤井光参加による2面の大型プロジェクションでの展示。場所の記憶を継ぐ建築とそれにかかわる人々が新たな記憶を重ねながら未来をつくっていく姿が表現されています。

全プロジェクトのタイムライン

2004年以降の全作品を、30mのコリドールを使いタイムライン(年表)で展示しています。実現したものだけでなく、挑戦し、敗れたものも含まれています。

同時開催のArchaeology of the Future -Search&Research

ギャラリー・間で同時開催された「Archaeology of the Future -Search & Research」

「Digging & Building」と合わせてギャラリー・間にて同時開催された「Search & Research」にも行ってきました。Digging & Builingが土地の記憶を発掘し、掘り下げ、飛躍させる手法とそれによって生み出された作品を紹介するのに対し、Search & Researchでは建築における思考と考察のプロセスが展示されており、「考古学的リサーチ」の方法論を観て感じ取ることがでる内容でした。

まとめ-田根剛「未来の記憶」-

田根さんの特徴としてあげた、建築を考える上で「土地の記憶を読み解く」というのは、特に新しい考えではありません。敷地はどのような場所に位置しているのか。ここは昔住宅地だったのか、森だったのか、田んぼだったのか、工場だったのか。周辺にはどのようなものがあるのか。等々。。。

ただその読み解きはおおよそ直近の過去までだし、周辺の施設や環境・文化を調べるところくらいまでで収める方がほとんどなのではないでしょうか。思考の幅を古代まで、そして関係するであろうあらゆる文化・歴史をリサーチするところが田根さんのすごいところですね。私なんかは古代まで遡るとそちらに引きずられすぎてしまいそうです。

ここだけの話実は田根さんにちょっとそのきらいがあるのではと感じてしまいました。まあ、展示のテーマがそう思わせるのかもしれません。

まあそちらに関しては少し見習う程度にして、視野を広く持って幅広くリサーチすることはしっかりと心がけたいところです!

そしてなによりも驚いたのはそのプロジェクトの多さです。私などはマルチタスク能力皆無なので一つの仕事でいっぱいいっぱいになってしまうのですが、一体この人はどれだけのことを並行して行っているんだと。自分で経験してそう感じたのですが、一つの仕事をやりきると人は大きく成長します。やればやりきった数だけ成長するということは、彼はそれだけ成長してきたし、その機会に果敢に挑戦し続けてきたんだろうと。そうしていろいろな経験が結びついて近年次々と魅力的な作品を生み出しているのでしょう。