クンストハル美術館-建築界に大きな影響を与えた地形を内包する建築-

オランダ、ロッテルダムのミュージアム公園と大通りのエッジに建設された企画展専用美術館です。世界に建築家としてのコールハースの名を知らしめた代表作の一つで、革新的な建築構成や意外な建築材料を活用しており、竣工から25年以上経った今なお訪れたものに新鮮な驚きを与えてくれます。

設計者-レム・コールハース(OMA)-

設計者はオランダ人建築家のレム・コールハース。建築家だけでなくジャーナリストでもあるという異例の建築家です。そのため建築理論の方でも有名で、「錯乱のニューヨーク」、「S,M,L,XL」などの代表著書は建築界に多大な影響を及ぼしました。

建築ではオランダのクンストハルとエデュカトリウム、アメリカのシアトル図書館、ポルトガルのカサ・ダ・ムジカ、中国のCCTVあたりが特に有名です。日本国内には福岡にあるネクサスワールドという高級分譲マンション群で彼の作品を観ることができます。

クンストハルの特徴

外観は四角い箱型をしていて、大通りのある街側と公園側で異なる表情を見せています。

街側はむき出しの鉄骨とガラスによってどこかインダストリアルな印象です。

公園側には石とガラスを表面ラインを揃えて向けることで物静かな佇まいになっています。

土手上の道路から車で公園に入る際この建物の下を通り抜けるように、交通と絡みあう建築になっています。

こうして外観を見ていると一見シンプルな建築ですが、この建築の最大の特徴は建築を取り巻く斜行空間にあります。

建築を取り巻く斜行空間

複数の階を持つ建築をイメージするとき、水平の床と階同士をつなげる階段、もしくはスロープをイメージすると思います。

これはル・コルビュジエのドミノシステムという概念図で、近代建築の構成要素を示したものになります。ここでは明確に上の階と下の階が切り離されています。このように近代建築において、階という概念は明確に切り離されたものとされてきていました。

クンストハルでは床自体が斜めになっていて、この階という概念自体があやふやになり切れ間のない連続的な空間体験が可能になっています。

斜めのスロープを取り入れた建築についていえば、フランク・ロイド・ライトのグッゲンハイム美術館など魅力的な建築が数多くあります。ですがあくまで動線として使われていた線的な斜めの床を、大きな面で床全体を斜めにしたことがこの建築を他にはない魅力的なものにしているのです。

様々な斜行空間

街と公園の高低差を解消するように建物の中央に斜めの床がかけられています。建物の下をくぐっていくような斜面ですが、ところどころ吹き抜けから光を取り込み暗くならないようになっています。

床は外部だけでなく美術館内部とも一体となっているので、斜面を降りる途中では展示が垣間見れることも。

エントランスとカフェは斜めの床スラブがそのまま現れた天井が視野を大きく占め、天井面に絵を描くようにデザインされた照明など、通常の建築とは異なった天井のデザインとなっています。

この天井の上部には斜面に沿って座席が配置されたホールが位置しています。

カフェの上にあるホール部分。斜面を活かして座席が配置されています。柱が鉛直ではなく、床に沿って垂直になるように立っていることも特徴的です。

大きな床ばかりではなく、傾斜が緩やかな階段もあります。正面になぜかコールハースの肖像画があってつい吹いてしまいました。建築関係や建築好きではない人は企画展のアート作品のひとつとして見るのでしょうか。少々気になりました。

美術館らしくない空間と建築材料

従来の美術館によく見られる白い箱型の展示空間ではなく、グレーチングの床や亜鉛めっき鋼板、ポリカーボネートといった、安価で街中でもよく見かける材料を用いた仕上げが使用されていたり、オレンジ色に塗られた梁材が展示空間に出てきていたりと、普段は隠してしまうようなものまで表出していて、まるで街の中を歩いている中に美術品が置かれているような空間になっています。

ポリカーボネートの壁をとおして照明が見えます。木仕上げについても角に役物を用いたりルーバーを用いたりせず、下地につかうような合板に塗装した程度ですが、決して安っぽさは感じません。

展示室の床の一部はグレーチングになっています。下にも展示空間があるので見上げ注意。日本では決してできない構成ですね。こういうところに欧州のおおらかさを感じます。

一見一般的な展示空間ですが、そんなところにも容赦なく斜めの柱が貫入しています。展示室としては欠陥として取られるかもしれませんが、現代アートについていえばこれもアートを表現するためのコンテクストになったりするから面白いですよね。

街と公園をつなぐ外部通路と斜面が一続きになった展示空間。狭いところですが、こんなところまでも展示空間になっています。

大胆でグラフィカルなサイン

サインというのは控えめにつけられていることがほとんどですが、ここではサイン自体が展示とでも言わんばかりの存在感を主張しています。

街側のファサード部分にある壁一面の大きなピクトグラム。

手すりを兼ねた誘導サイン。目を惹くオレンジ色と矢印がポップでついつい引き込まれます。

地形を内包する建築

「クンストハル」は竣工から25年以上経った今でも、全く古臭さを感じない。常にデザインの先端であり続けるような建築です。今や建築界の巨匠であるコールハースの代表作、クンストハル。オランダに訪れた際は足を運んでみてはいかがでしょうか。

【アクセス】ロッテルダム中央駅からトラム8番でKievitslaan下車→徒歩2分 
【開館】  平日:10:00~17:00
      日曜:11:00~17:00
【休館】  月曜日
【入館料】 一般:14ユーロ(17歳以下は無料) 学生(26歳まで):7ユーロ
※2019年4/1時点での情報です。
公式HP

DATA

設計  :レム・コールハース(OMA)
所在地 : Museumpark, Westzeedijk 341, 3015 AA Rotterdam, オランダ [地図]
竣工  :1992年
延床面積:3,300㎡
用途  :美術館
構造  :S造